日本一のクロビイタヤ―七座神社(秋田県能代市二ツ井町小繋字天神道上)

撮  影 H16年7月―9月
カエデ・モミジなどの仲間(カエデ属)が作り出す深い森の陰影(7月調査時)
今回確認された中で最大の幹周を持つクロビイタヤ(2.63m)

 Facebookと重複するが、所属している東北巨木調査研究会で調査していたカエデ属の希少種「クロビイタヤ」の群生地が秋田県内にみつかったため、マスコミへの公開調査と発表が現地で行われ、スタッフとして参加した。
 
2016年9月20日
秋田県能代市二ツ井町のクロビイタヤに関するニュース①
・秋田朝日放送トレタテ18:15~
秋田県能代市二ツ井町のクロビイタヤに関するニュース②
・NHK秋田ニュースこまち18:10~

 東北巨木調査研究会が調査してきた秋田県能代市二ツ井町(旧山本郡二ツ井町)の七座山周辺のクロビイタヤ(環境省レッドリストランク:絶滅危惧II類)について、調査測定・発表が行われました。
きみまち公園頂上あたりから臨む七座山と七座神社社叢(7月調査時)
7つの峰を持つ七座山と対岸の七座神社の位置関係図

 マスコミにも呼びかけたところ、読売新聞・毎日新聞・秋田魁新報社それに地元の北羽新報社と、NHK秋田放送局、秋田朝日放送による取材がありました。
 当会からは会長の高渕英夫と、樹木医でもあり、クロビイタヤの繁殖も手がけている釜淵一知理事、小沢純二理事、岡本喜栄作理事他、青森・秋田両県の会員数名が参加しました。
 生物多様性論・保全生態学の専門家として、筑波大学准教授で、「希少樹種クロビイタヤ(カエデ属)の遺伝構造と景観特性との関係」を研究テーマのひとつとされている、佐伯いく代准教授にも参加いただきました。

対岸の七座山から見た七座神社の社叢
米代川は、雄物川と並び秋田県最大にして東北を代表とする河川のひとつですが、この北緯40度が生態系の分岐のラインであることはあまり知られていないように思います。
 わたしの知る限りでは、日本ではウグイと並んでよく知られるオイカワという魚は日本海側では雄物川が最北で、米代川では見かけませんし、大館市はニホンザリガニ生息地の最南端です。
 また国土交通省が発表した調査資料によると、米代川の流域に生息する両生類の種類は国内で最も多いことが発表されています。(※全国31河川調査中1位:「平成15年度河川水辺の国勢調査について」)


 今回保存状態の良好なクロビイタヤの群生地として確認された、七座山麓と対岸の七座神社の社叢は、すぐ上流で森吉山のある阿仁・森吉地域から流れる阿仁川が、小猿部川と小阿仁川を取り込み(このことから合川という地名が起こった)、米代川と合流し流量が増大する地点で、このすぐ下流のきみまち阪で、白神山地から流れる藤琴川と粕毛川も取り込むという、おそらく1000年2000年単位で見ても水が枯れることがなかっただろうと推測される場所です。
七座神社と豊かな社叢を守り続けてきた嶺脇勉宮司。拝殿脇の神木もクロビイタヤ

 佐伯准教授も、各地にわずかに点在するこの樹種が生きながらえた地域の特徴として、
 ①湿潤であること(水の補給が常に確保されうること)
 ②寒冷であること
 ③側に河川などがある緩やかな傾斜地などであること
などを挙げられていました。
佐伯いく代筑波大学准教授
また、この七座山を越えた仁鮒地区の最奥には全国でも最大級の天然杉の保護区である「仁鮒水沢スギ植物群落保護林」があることや、北には白神山地の南の玄関口である藤里町があることなど、まだまだ多様な生態系が残されている可能性をわたしたちに再認識させてくれたのではないかと思います。
 クロビイタヤという樹種じたいは、杉やケヤキのように巨木と呼べるほど大きく育つ木でもなければ、長い寿命を持つ木でもありませんが、当会会長の高渕も、
「このことが多くの人に知られることによって、関心の輪が広がり、少しでも希少な樹木を維持していくことの大切さが理解されることにつながることこそがわれわれの一番望んでいることです」
と語ってくれました。
高渕英夫「東北巨木調査研究会」会長

▲測定状況。目通り(地上)1.3mの幹周を測定
クロビイタヤの翼果(種)の形状について説明する釜淵一知理事(樹木医)

▲一般的なイタヤカエデの翼果(左)と、ブーメランのような形状のクロビイタヤの翼果

 こういう活動に参加できたことをうれしく思います。参加した関係者の皆様ありがとうございました。

※報道では、14本のクロビイタヤと紹介されていますが、マスコミが去った後に継続して調査をしたところさらに1本確認されましたので、正しくは七座神社社叢に11本、対岸に4本で、計15本を確認しました。
  

七座神社社務所裏にある境内で最大のケヤキ(幹周6.3mを確認)をはじめ、広大な社叢には他にも貴重な樹種が数多い。


〈七座神社について〉

 七座天神ともいわれ、現在は日本書紀にある神代七代の十一柱七代の神のうち、最初の三神
国常立尊、国狭槌尊、豊斟渟尊
に加え、
伊弉諾尊・伊弉冉尊・菅原道真尊
を祀っている。

 日本書紀にある斉明天皇4年に阿倍比羅夫が蝦夷懐柔のために訪れた際に、齶田(アギタ)・渟代(ヌシロ)・肉入籠(シシリコ)火内(ひない)―それぞれ秋田・能代・綴子(北秋田市鷹巣)・比内(大館市)といわれている―などの地名が登場するが、この七座神社にも船を繋いだという。

 十和田湖・八郎潟・田沢湖の3つの湖の創世を伝える秋田の国引き神話「三湖伝説」の主人公、八郎太郎が米代川を堰き止めようとして七座天神に阻止された、また米代川の水中の巨石は八郎が投げ入れたものだなどの伝説も伝わる。

 また、織田信長の次男、織田信雄が秋田に流された際に帰還を祈願したともいわれる。(『伊頭園茶話』久保田藩士 石井 忠行 著)

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