勝源院で龍に遭うこと(岩手県紫波郡紫波町日詰)

勝源院の逆さガシワ
樹  高 約15m
幹  周 6.9m(どういう測り方をしたのか不明)
枝  張 東西22m、南北28m
樹  齢 伝承700年
撮  影 H16年11月
国指定天然記念物


ご住職の奥様が参道の掃除に出てこられたのであいさつをし、秋田の大館からカシワの木を見に来たことを告げると、ご住職も秋田出身であることや、義妹が転勤で大館にいるのですよと、偶然の一致に驚かれていた。

規定の目通幹周の測定で日本一のカシワの木は、東北巨木調査研究会で確認している『上村のカシワ』(青森県三戸郡五戸町倉石)である。
しかし、また別な意味でこのカシワもまた他に類を見ない巨木に違いない。

勝源院の逆さガシワ』が国の天然記念物指定を受けたのは1929年(昭和4年)12月17日である。その年の出来事を調べてみた。
ニューヨーク証券取引所で株価が大暴落して世界恐慌が始まった。
東京駅の八重洲口が開設し、花園ラグビー場が完成した。
アンネ・フランクが生まれた。この年に生まれた人は2016年には87歳である―

国指定天然記念物の樹木じたい、そう多くはないのだが、カシワという樹種のみならば全国でこの木しかない。
指定を受けても永久にそうであるわけではなく、枝が折れる、樹勢が衰える、枯れ死するなどの理由で解除されてしまう木もある。
指定を受けてから90年近くの歳月を過ぎてなお君臨しているこの木のすごさがおわかりだろう。

この木の大きさを写真で伝えるのはとてもむずかしい。
地上からさほど離れぬうちに、巖のような太い幹から4本の太い枝に分かれているため、規定の幹周(地上1.3m)で測ると途方もない数字がでてしまいそうで意味がない。
全体を撮ろうとすると、そのあまりの広さゆえ、枝が細く感じてしまう絵しか撮れそうにない。

本当に、写真で見て想像していたよりもずっと大きく威厳のある銘木であった。
秋ではなく葉の生い茂った季節も素晴らしいのだろうが、葉の衣に隠されて、もしかしたらこの木の本当のすごさを知ることができなかったかもしれない。

本堂の裏に回り、墓地から庭園を見下ろした時、その大きさに思わずため息がもれてしまった。
案内板のとおりだと、枝張りは東西22m、南北28mということになるが、ちょっとした大型トレーラー並の長さである。
枝張りの規模がすごいというだけならば、日本一の影向(ようごう)の松も見たし、唐崎の松も見たが、ああいった温室育ちとは異なるこのカシワの持つ園芸を超えた猛々しさはなんだろう。

まるで山水画から抜け出た臥龍のようではないか。
隣の石鳥谷町にある『光林寺の三又カシワ』でも述べたように、あのカシワは、この逆さガシワから株分けした子なのではないだろうかと考えている。
10kmしか離れていない距離、共に寺の裏に庭園を設け、そこの主役として上に伸ばさず地を這うように育てられており、とてもカシワの自然木とは思われず他に類を見ないことを考えるならば、同じ庭師が手がけた可能性は十分考えられるのではないだろうか。

はるか昔に世を去ったはずのその庭師は、この2株しか世に残さなかったのだろうか。
立木のカシワをここまでに仕上げる技を受け継いだ者はいないのだろうか。
いまだ知られることなく、どこかの古い屋敷の庭園で、この龍の兄弟が眠っているかもしれないと思うとわくわくしてしまうではないか。

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